2011年7月6日水曜日

採譜アレンジにおける驚愕や困惑や悩み

楽譜出版の仕事に入ったのは20歳代前半、この時代、雑誌「キーボード・マガジン」が創刊されるなどポピュラー楽譜の出版が一気に増えた。
一昨日入会された生徒さんは、その頃の懐かしい出版物を持参された。ジョー・サンプルの採譜曲集、そこで私の十八番「Melodies of Love」のさわりを久しぶりに演奏した。私も気分良く演奏したら、新入生の彼はこれを練習することにした様です。
さて本日のタイトルは目下の難問についてです。

ピアノ演奏の採譜の場合、同時にいくつかの音を演奏しているハーモニー等は右手なのか左手なのか、私も確信が持てないことがある。
ビル・エヴァンスの美しいハーモニー、両手ともにオクターブ以上ある場合もある。何とか両手でカバーできる場合も、一体どこから右手なのか、どこまでが左手なのか、鍵盤の真上から撮影されていれば別だが、これはわからない。
演奏してみて、これまでの採譜体験およびビル・エヴァンスの演奏スタイル研究から推測して書くことになる。

手が大きいと言えばオスカー・ピーターソンにはびっくりしたものだ。明らかに左手で演奏しているテディ・ウィルソン・スタイルの10度を含むスウィング・ベースのE♭7、下からE♭音ーD♭音(短7度上)-G音(長10度上)を同時に軽々と演奏しているのだ。

音が明解な場合はまだ良い。ピアノと言う楽器、長い指がつい目的外の鍵盤に触れてかすかに鳴ってしまうことも当然起こり得る。最近のデジタル録音の様に、不都合な部分の音を消してしまうなんてことは昔考えられないことで、全体の雰囲気が良ければOKテイクとして録音盤が大量に複製されてレコードとして出版される。
実際、ビル・エヴァンスの採譜とか、ジョージ・ガーシュウィンの採譜において、判断に困る音に遭遇した。
実際に演奏してみる。やはりミス・タッチに聞こえる音はアレンジして直すか、これをそのままにして文字の解説でフォローする。楽譜の模範演奏を録音する場合にはベロシティを下げ、実際の演奏の様にリアルにその微妙な響きを再現する場合もある。
テンポが変化する場合の拍の感覚はもうファンタスティックだ。これはまた後日書こう。

歌詞で今困っている。
例えば日本語の場合、楽譜に書き込む歌詞は母音でわけて平仮名で書くのが普通の方法だ。歌手によっては日本語に聞こえない様にわざと歌う人もいたりしますが、それはともかく歌だけ聴くと何て歌っているのかわからないことだってある。歌詞の記載された資料をみて、ようやくわかることもある。そこで日本語の歌詞の場合には、楽譜の中は平仮名で記載し、楽譜とは別に歌詞を記載する。歌詞だけの記載はなるべく作詞段階のものと思われる様にするので、多くの場合は漢字とカナが混じる詩となる。

ビリー・ジョエルは英語、これも音節でわけて書くのが基本だが、部分的に通常の音節の分け方に聞こえない場合も出てくる。これを聞こえたように書くのか?
昨年の発表会向けに英語の歌を採譜した際、リエゾンというのに気づいた。いくつかの語が続くとそれぞれの語の単独の発音を続けた様になるのではなくて、続けて歌うことで音が変化してゆく。私の様に純粋日本育ちの人間には、うわあ~って思う程変わってゆく。
ビリー・ジョエルの場合にリエゾンで悩むというのは無かったけれど、やはり微妙に問題が生じている。

結局のところはピアノと同じで、ピアノを弾くユーザにとって良い楽譜という風に考えねばならないはず、実際に歌うユーザに向けての正しいというか基本となる書き方というのもある様に思う。
これはもう専門家に相談するしかないな…、今朝、散歩しながら考えていた。4,800歩。

画像は、以前の撮影だが、あまりに伸びた枝を払われてもまた伸びてゆく木の姿。今日の心境から選んだ。

なかなか仕事は進まないが、焦らずに着実に進めよう。時間がかかっても良いものを作ろう。出版物は残る。演奏とは違う。そこは可能な限り適切な楽譜を書く努力を続けるということだと思うのだ。

2 件のコメント:

  1. 新入生のWです。お世話になります。
    まだ学生の頃でしたか(30年程前?)、ジョー・サンプルの楽譜2冊を買い求めまして、時々引っ張り出しては眺めておりました。実は、今回新入生としてお世話になることが決まってから先生の著書であることに気付き、ご縁だなあと感じ入った次第です。
    どうぞよろしくお願いいたします。

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  2. 頂いたメールによれば別の曲だね。
    Rainy Days and Mondays always get me down
    私は中国人よろしく休日の概念が無いので月曜日にはダウンしないのですが、その月曜日には是非、ピアノ音楽の別世界に来てください。
    まっています。

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