2017年12月11日月曜日

ドロップ2(補足説明)

先の この投稿 の補足説明をします。

・和音と和声

まず最初に予備知識として、自著「標準ポピュラー・コード理論(改訂新版)」より引用して説明します。

コード(chord)は「和音」、ハーモニー(harmony)は「和声」と訳され、これらは双方の概念を見事に表現しています。協和する「音」と「声」の違い。
ある時点で響いている音の調和が「和音」、同時進行する「声(正確には声部)」が織り成す調和が「和声」です。

・ベース音とコード表記

低音域にあるコードの最低音をベース音、ベース・ノート(bass note)と言います。
ベース音はコードの響きをほぼ決定する音、コードの基本形(根音がベース音)ではベース音の音名を使ってコードを表記します。C音がベース音の長三和音(C音とE音とG音)はCと表記します。

・音域について

下の譜例を見てください。高音部記号(譜表)、中音部記号(譜表)、低音部記号(譜表)はそれぞれの音域、つまり、高音域、中音域、低音域について五線を有効に使える様に五線の高さを定義する記号ということがわかります。


高音域はこれよりもっと高い方に広がっていますので、五線の範囲を超えたら加線、あるいは1オクターブ上(8va---)とか2オクターブ上(15ma---)の様な記号を使って示します。
低音域もこれよりもっと低い方に広がっていますので、五線の範囲を超えたら加線、あるいは1オクターブ下(8vb---)(なお1オクターブ下を8va---とは書きません)の様な記号を使って示します。ギターやベースは楽譜に書かれた高さ(記譜)より実際の高さ(実音)は1オクターブ低いため、高音部記号や低音部記号より1オクターブ低い音を楽譜の上では1オクターブ上に書くことになっています。

・ベース音とコード

コードが中音域や高音域で配置を変えた場合(配置の変更を転回と言います)、響きの違いをベース音の関係する響きほどには違いを実感しません。せいぜい下の譜例で★の配置の最低音が低音域に近いので、このG音をベース音と感じる人も居るでしょう。


下の譜例の左側は、同じベース音に対して中音域で配置を転回した例。それぞれの響きの違いはあまり大きく感じません。
一方、右側は、ベース音を変えた例。それぞれの響きの違いははっきりしています。この様に、低音域で実際に配置される音をコードに表記することが大切です。



・独立声部と従属声部

和声学では、独立した四声部のハーモニー(和声)を学びます。独立しているということは、他の声部と一時的に同じ方向に動いたとしても、ずっと同じ方向への動き、特に5度や8度で動く場合を平行と言い、これを禁則としています。5度や8度の様に響き合う音程で一緒に動くということは、それぞれの声部の独立性が失われ、一時的に声部数が減少したと考えるからです。
和声学の真髄を簡単に短く解説するのは難しいのですが、独立した四声の動きという例を見てください。


ポピュラー音楽が独立四声部で書かれることはあまりありません。二声部(メロディ・ラインとベース・ライン)のことが多く、三声部の場合はカウンター・ラインが加わります。
カウンター・ラインが二声あり全体として四声になっている場合があります。
「Waltz for Debby」の場合、内声に二声のカウンター・ラインがあり四声で構成されています。

独立した三声部の例(「オーラ・リー」)。一番上がメロディ・ライン、一番下がベース・らライン、その間の内声部にカウンター・ラインがあります。


下の譜例は「Waltz for Debby」のスケール的なライン(主旋律ではなく主旋律の合間にあるつなぎのスケール)についてです。

(1)実際のコード進行はベースが演奏しているD音→G音→C音、これが全体の響きを決定、Dm7(9)→Gm7(9)→C7(9)となります。

(2)(1)の右手のスケールに対して密集位置でボイシングします。それぞれ四声の最初の配置には9thを加えて響きの変化をつけ、この配置を機械的かつスケール的に順次隣の音へ上げてゆきます。

(3)(2)の密集位置二番目の音を1オクターブ下げ「ドロップ2」を作ります。一つ一つは確かに和音ですが、全体の響きはベース音が決定、全体としての響きはあきまでもDm7(9)→Gm7(9)→C7(9)、このコード進行に細かい和音を乗せて順次演奏します。このテンポでは直ぐ次の和音、一つ一つの和音をじっくり聴いている時間はありません。それより全体の流れ、それぞれの声部をスケール的に動かすことが大切です。


この様なスケール的な「ドロップ2」、いろいろなキーに応じて即興的ヘッド・アレンジで演奏できる様に練習しておきましょう。

3 件のコメント:

  1. 先生こんにちは。
    ドロップ2の詳しい説明をありがとうございました。
    理解はできたつもりです。
    Waltz for Debbyのあの部分は
    基本Dm7-Gm7-C7なんですね。
    このスケール的なドロップ2をまずは、ボランティアの歌の伴奏に実践できそうです。
    即興では無理ですが、しっかり狙って行きたいと思います。
    ありがとうございました。 by A.I

    返信削除
  2. あまり複雑なコード進行ではない(メロディも単純かつメロディというよりは一定のスケール的な動きで臨時記号が出てこない)様な部分で試作してみてください。
    オープンなボイシングはオクターブ以上の広い音域になり、響きやよいがベース音を演奏するのが難しくなりますから、状況に応じて「うまく使えそうな場所に効果的に」試してください。

    返信削除
    返信
    1. なるほど。ありがとうございます。
      試してみますね。A.I

      削除